円安になる材料を考える

世界経済は、本年後半から本格的な減速局面に入り、グローバル・リセッション(世界規模の景気後退)の懸念が高まろう。一方、わが国経済は、震災からの復興特需に沸き、急激な拡大局面を迎えることになる。この組み合わせは、逆説的に、わが国がバブル経済期に経験したような大幅な円安局面を、外国為替市場にもたらす公算が高い。ドル円相場は2012年に向けて100円超を目指す展開が予想される

バブル景気のなかの円安

1985年のプラザ合意以降、ドル円相場が大幅かつ急激に上昇した局面が2回ある。一度は、1988年から1990年にかけて、ドルは120円から160円まで約33%も上昇した。今一度は、1995年から1997年にかけてである。この時、ドルは80円から127円まで59%上昇している。後者は、1995年4月のG7において、行き過ぎたドル安の是正が合意され、ドル買い協調介入が実施されたことに加えて、わが国の金融不安が日本売りを招いたことが主因となっており、納得のいく円の下落といえる。しかし、前者は、世界経済が減速する一方、わが国がバブル経済の真っ只中に生じた、いわば、好況期における大幅な円安であうたという点において、読者には違和感があろう。

 

筆者の見方によれば、世界経済は減速に向かっている。すなわち、グローバル・リセッションの到来である。新興国を代表する中国経済は、インフレの抑制に手をこまねき、景気が腰折れする可能性がある。欧米経済も、不動産バブル崩壊の後遺症に苦しむなか、中国という成長エンジンを失えば、景気減速は避けられまい。

 

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インフレと過剰生産の併存によりハード・ランディングの懸念高まる

中国のインフレ率上昇に歯止めがかからない。5月の消費者物価(CPI)上昇率は、前年比5.5 %上昇し2年10ヵ月ぶりの伸びを示した。さらに、国家発展改革委員会はヽ6月のCPI考昇率は5月より「高まる」との見通しを明らかにし、市場では、6%台に乗せるとの予想が大方である。また、中国人民銀行(中央銀行)が6月16日発表した都市住民へのアンケート調査(5月実施)では、「物価が高すぎる。受け入れがたい」と答えた人の割合が68.2 %に達し、今後も物価の上昇が続くと予想した人の割合が45.4 %に上っている。

 

一方、人民銀行の李稲葵金融政策委員が、「中国経済は繊維から家電、自動車、建材、家具に至るまで、あらゆる製品が生産過剰だ」と述べているように、インフレ率の上昇にもかかわらず、生産と生産設備が過剰という奇妙な状態が続いている。 2008年秋のリーマン・ショック後、中国政府は4兆元を投じ、インフラ整備や工業製品の増産を推奨してきた。自動車の生産能力は、2015年には4000万台になると予測され、エアコンの生産能力も主要7社だけで2015年に2億台と2010年比2倍に拡大する。さらに、中国の工業情報化省は、5月に入り、錬鉄、電解アルミなど、素材業界を中心に18業種に対し生産能力の削減を求めているが、政府の削減目標に従い、調整に応じる企業は稀である。

 

人民銀行はインフレを抑制するために、2008年の金融危機後、2010年10月に利上げを開始して以降、4回の政策金利の引き上げを実施してきたレまた、預金準備率は、2011年に入り6回引き上げられ、大手銀行の準備率は過去最高となっている。さらに、人民銀行は、漸進的な元相場の切り上げも実施してきた。元の対ドル相場は、6.5元割れまで上昇している。

 

インフレと過剰生産能力の併存は、中国のインフレが主に人々のインフレ心理や、農産物、資源価格の高騰に由来した金融引き締め策だけでは対処できない構造的な産物であることを物語っている。人民銀行は今後も引き締め政策を継続すると考えられるが、景気にはすでに減速の兆候が出てきている。したがって、中国経済には金利と元相場の上昇が、早晩、需要と生産を必要以上に抑制し、ひいては生産能力過剰が一気に顕在化し、設備投資も調整も迫られるというハード・ランディングを迎える可能性が高い。

ユーロという構造的矛盾が一挙に噴き出す時期に

欧州経済は、3つの構造的な矛盾によって、本質的な財政危機対策を先送りせざるを得ないであろう。

 

第一は、欧州における民主主義の矛盾である。ユーロ圏内では金融政策が唯一であり、それは主に景気がよく、インフレ懸念が強いドイツなどに合わせて実施されている。これではギリシヤやポルトガルといった南欧諸国はもたない。したがって、ユーロ・システムを維持するために、南欧諸国をドイツなどの税金を使って救済することは自明の理だ。

 

日本に当てはめれば、地方交付税という東京から地方へ資金の流れが、地方経済を潤している。しかし、欧州は依然ナショナリズムから脱し切れず、国政選挙が国単位で行われているため、ドイツなどの国民はそれをよしとしない。

 

第二は、ユーロという通貨の矛盾である。歴史を振り返れば、財政危機に見舞われた国は通貨が暴落することにより、財政再建を余儀なくされ、また、輸出競争力の増大によって経済が回復する。しかしギリシヤやポルトガルは、ユーロ・システムに属しているため、大幅な通貨下落に見舞われることがない。これがかえって南欧諸国の経済回復を妨げている。かといって、南欧諸国がユーロを脱すれば、悪貨は良貨を駆逐するとの通り、ユーロが毀損するため、それにも踏み切ることもできない。

 

第三は、EU政府とECB(欧州中央銀行)の利害の矛盾である。ギリシヤやポルトガルには、国債のデフォルトを含めた厳しい再建策が不可欠である。しかし、そのような国々の国債を大量に保有しているECBにとって、デフォルトは、バランス・シートの毀損を招く。その結果、EU政府とECBの立場は対立し、抜本的な対策を採ることが叶わない。

 

この結果、財政危機は長期化し、ユーロ圈においても成長の阻害は継続し、中国経済が減速すれば、欧州もまた景気減速は不可避となる。

円は大幅に下落し、1ドル100円超も

以上に述べた通り、世界経済は、年後半から本格的な調整局面に入ると筆者はみている。一方、日本経済は世界経済が減速するなかでも、震災からの復興特需によって、力強い成長を遂げる公算が高い。さらに、2007年6月以降の円高で、円はドルに対してすでに55%も上昇している。日銀は復興をサポートするため今後も金融緩和を継続する可能性が高い。また、景気拡大によってインフレ率は上昇していくとみられる。

 

すなわち、2011年後半から2012年末にかけてわが国を取り巻く経済状況は、程度の差こそあれ、1980年代後半のバブル経済期に円か大幅に下落した際と酷似することになる。したがって、今回も、経常収支黒字の縮小、対外直接投資と証券投資の増大、インフレ率の上昇から、円は大幅に下落する公算が高い。2012年に向けて、ドル円相場は100円超を目指す展開が予想される。いよいよ円安局面でFX投資家の円売りポジションに利益がのる時期がきたと考えてもいいのではないか。